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静かで不思議な『神秘の湖』でした。
湖のみなもには、毎朝たくさんの蓮の花が咲いていました。
白、ピンク、赤、黄、青、
色とりどりの蓮の花は一つ一つが美しく、
穏やかなみなもはかがみのように、その美しさを映していました。
ある日、不思議なことが起きました...。
ある日、白い蓮の花が、蓮の実たちに話しかけました。
「大切な子供たち、みんなずいぶん大きくなって、
もうわたしのベッドでは狭すぎるから、外の世界に出ておいで。
ひろい世界を旅して、もう一度ここに戻って来られたら、
あなたたちも、わたしたちと同じ美しい蓮の花になれるのですよ。」
「ただし、この旅は決して楽しいことばかりではありません。
旅の途中でつらい思いをしたり、キケンなことにあうかもしれません。
もう一度ここに戻るために大切なことを話すから、よく聞いてね。」
この宝物を思い出せれば、どんな危険も乗り越えられます。
それは
きっと助けてくれるでしょう。」
大きな白い蓮の花は、優しく微笑みながら
もう一度蓮の実たちに話しかけました。
「あなたたちの家はこの神秘の湖です。 三つの宝物を大切にしていれば、必ず戻ってこられます。
わたしはずっと、あなたたちの帰りを待っていますよ。」
レンちゃんは落ちながら考えました。「なぜ、わたしたちの旅はむずかしいと言われるのかしら。 ほら、湖の水はこんなにきれいだし、つきあかりだって輝いているもの。きっとすぐに戻ってこられるわ。」
湖の底に落ちるのは簡単でも、戻っていくのはむずかしいことにレンちゃんはまだ気付いていません。
湖はとても深く、なかなか底にたどり着けません。
いつのまにかつきあかりも届かなくなり、あたりがどんどん暗くなっても、まだ落ち続けています。
レンちゃんはだんだん怖くなってきました。 「あわわ!あわわ!あわわわ!」 「なにも見えなくなっちゃった」
真っ黒な泥水は、下に行くほど汚くにごり、息も苦しくなってきました。
レンちゃんは目をぎゅうっと閉じたまま、湖の底まで落ちていきました。
湖の底は汚い泥のかたまりだったのです。
レンちゃんは目を少しずつ開けてあたりをみわたしましたが、
真っ黒な世界が広がるばかりで何も見えません。
「わたしはどこへ行けばいいの?
わたしのお家はどこにあるの?
わたしはどうすれば戻っていけるの?」
レンちゃんは心細くなってつぶやきました。
その時、レンちゃんの耳にあやしい声が聞こえました。
声のする方に目をこらしてみると、大きなワニがレンちゃんに近づいてきました。
ワニの背中には、名前が書いてありましたが
まわりが暗すぎてよく見えません。
「レンちゃん。おまえは蓮の実のレンちゃんだな」
「おまえは今日からこの湖の底でくらすのだ。
ここにはここの決まりがある。
これからおれさまの言うとおりにするんだ。」
「ここは暗すぎて、誰かがぶつかってくることがある。
暗い泥の中ではみんなが不機嫌になり、おまえを傷つけることもあるだろう。
そんな時には絶対にがまんするな!
徹底的にやり返せ!倍返しだ!いや三倍返しだ!
全力でやり返して、おまえの力を見せてやれ!」
大きなワニはするどいキバを見せながらしゃべり続けます。
レンちゃんは怖くなりました。
「ここで生きていくには、ワニの言う通りにしないといけないのかな。」
すると突然、大きな白い蓮の花の姿が浮かびました。
「ちがうわ!ワニの言う通りにすれば、
わたしはこの汚い場所でずっと生きなくちゃいけない!
そしてあのワニのように、怖くなるのだわ!」
「もしおれさまの言うとおりにすればこいつを「パクッ」と食べてやろう」
「ここの決まりを教えてやったのだから、礼をもらうのは当然だろう。」
もしもワニに食べられてしまったら
湖の上に戻ることも、美しい蓮の花になることもできません。
「大丈夫!大丈夫!」
レンちゃんはなんども自分に言い聞かせました。
その時、大きな白い蓮の花の言葉を思い出しました。
困難な時に必ず助けてくれますよ。」
勇気を出してワニに立ち向かおうとした時、奇跡が起きました。
「善」の光がレンちゃんを包み、あたりがパァッと明るくなりました。
大きなワニの背中も照らされて「邪悪」の二文字がハッキリと見えました。
突然、レンちゃんは不思議な力で上に弾かれました。
湖の底に比べると呼吸もしやすくなりました。
レンちゃんが自分の体を見てみると
小さな花びらが2枚生えていました。
「わぁ!よかった!
蓮の花に近づいてきたわ!」
でも、うれしくなるのはまだ早いのです。
ねっとりと光る体にはみにくいイボがあり、水かきのついた大きな足を引きずってレンちゃんのそばまで来ると、ガマは低くかすれた声で話しかけてきました。
「ようこそようこそ 我々の世界へようこそ!レンちゃん。 ここのルールは簡単だよ。ここでは自分のことだけを考えればいいんだ。」
「他の人を助けなくてもいい。自分の利益を守るためなら、どんな手でも使うがいい。自分の目的を達成するためなら、嘘だってついていい。もし失敗したら、他の人のせいにすればいい。
例えばここにあめが6個あって、誰かと分け合う時は自分が5つ取って、相手には1つだけ渡せばいい….。」
レンちゃんは怖くて目を丸くしながら、ガマの話を聞いていました。
「このガマの言うことは、大きな白い蓮の花が教えてくれた宝物と、全然ちがうわ。」
レンちゃんは三つの宝物を思い出しました。
「大きな白い蓮の花が教えてくれた三つの宝物は….。」
『真・善・忍』
レンちゃんが心の中で呟くと、「真」の文字が灯台のように輝きました。どこからか光り輝くヴェールがあらわれレンちゃんを柔らかく包んだと思うと、力強く押し上げました。
「うわ〜 まぶしい!」
『真』の光に驚いて、ガマは地面にひれふしました。ガマの背中には「欺瞞」という二文字が書かれていました。
光るヴェールに包まれてレンちゃんは「暗い世界」にやってきました。上を見上げるとうっすらと日差しも見えています。
ふと自分の体を見ると、きれいな花びらが6枚生えていました。ガマのいる世界から抜け出して、レンちゃんの心は強くなりました。それでも、まだまだ試練は終わりません。
ニヤニヤと笑いながら、ゆっくりとレンちゃんに近づいてきました。
黒いイモムシは、ワニやガマほど邪悪には見えませんが、うすぎみ悪く話しかけます。
「おめでとう!レンちゃん。
きれいな蓮の花になれたね。
ようこそ我々の世界へ!
この世界は穏やかで日差しもあって、とても良いところだよ。」
「ここでのルールはとても簡単だ。」
「一つ、やりたくないことはやらなくてもいいよ。
勉強も仕事も努力なんてしなくていいんだ。
ここにいれば、苦しいことは何もない。
二つ、友達なんていらないよ。
友達がいれば、ぐちを聞いたり、
助けたりしないといけないからね。」
レンちゃんは考えました。
「努力する必要はないの?そうしたら、新しいことを学べないわ。友達もいらないの?そうしたら、きっと寂しくてつまらない!やり返してもいいの?そうしたら、いつまでたっても仲良くなれないじゃない!」
「そんなのダメ!ダメだわ!」レンちゃんは自分に言いきかせました。
「わたしには、この暗い世界からはなれる方法がわかるわ!」『真・善・忍』
レンちゃんがの心の中でとなえると「忍」の花が開き、真珠のように輝きました。
美しい光の玉がレンちゃんを包み、あたりを照らしながら、ゆっくりと上にのぼり始めました。
どんどん小さくなって、やがて見えなくなりました。
レンちゃんはどんどん上へと登っていきます。
太陽の光がまぶしくなり、まわりの水もキラキラと輝いています。
暗くて冷たい世界は、はるか下へと遠ざかりました。
レンちゃんは、ずいぶん強くなりました。
くきも太くまっすぐ成長して、自信もわいてきました。
長い旅をおえて、レンちゃんは神秘の湖のみなもにやってきました。
水と空気をへてるものはもうありません。
レンちゃんの耳元に、大きな白い蓮の花の声が聞こえます。
「あなたはもう立派に成長して、誰かを助ける強い力も持ちました。あなたの美しさは、世界に幸福を与えるでしょう。」
レンちゃんはみなもにそっと目を向けました。
そこには、すきとおった花びらが何枚もかさなり、不思議な光で輝く、美しい自分のすがたが映っていました。
湖のみなもに、たくさんの蓮の花が集まってきました。どの花も、自分だけの旅をあゆみ、自分だけの美しさを持っています。
もしも、あなたがこの神秘の湖を訪れたなら美しい蓮の花がやさしく語りかけてくれるでしょう。
「苦しいことがあっても『真・善・忍』を忘れずに自分の道を歩みましょう。」